気候変動

気候変動への対応方針

キオクシアグループは、気候変動への取り組みを経営の最重要課題の一つと位置付け、事業活動と製品のライフサイクルの両面から、温室効果ガス排出と事業で使用するエネルギーの削減を目指しています。
温室効果ガス排出については、製造時に排出される地球温暖化係数の高いPFC等ガス*1を除害する装置を、対象設備に2011年以降100%設置しています。使用するエネルギーについては、日本国内の「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下「省エネ法」)に基づき、省エネルギー活動で削減する方針のもと、毎年、前年度の総エネルギー使用量(SCOPE2:事業活動による間接排出)の1%を削減する目標を設定しています。また2020年度には、2040年度までに電力使用における再生可能エネルギーの比率を100%とする長期目標を策定しました。
製品開発においては、お客様における製品使用時のエネルギー効率の向上を図るとともに、調達取引先における温室効果ガス排出量の把握や、それらの削減への関与を進めることで、バリューチェーン全体を通じた温室効果ガス排出の削減にも努めていきます。

  • *1  PFC等ガス:半導体製造時に使用する代替フロンガス。地球温暖化係数が高い。

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応

キオクシアグループは2021年6月に、TCFD*2最終報告書(TCFD提言)への賛同を表明しました。事業における気候関連の影響度を的確に把握し、ステークホルダーへ情報を開示し、双方の理解を深めることが、企業の持続的な成長に不可欠と考え、TCFDに沿った取り組みと情報開示を積極的に進めています。

  • *2 TCFD:金融安定理事会(FSB)が設置した気候関連財務方法開示タスクフォース。気候関連のリスクと機会に関する情報開示を推進する取り組み。

ガバナンス

気候変動に関する当社の戦略・方針策定および達成度の確認は、代表取締役社長が議長を務めるサステナビリティ戦略会議において、執行役員により審議した上で、最終的には取締役会に諮っています。サステナビリティ戦略会議で策定された戦略・方針に基づき、サステナビリティ担当執行役員を委員長とするサステナビリティ推進委員会において、重要テーマやKPIの策定等を討議しています。また、本会議体の下部には、重要なサステナビリティ課題に取り組むタスクフォースを設置し、進捗の報告や方向性の確認を行っています。2021年度は、TCFD提言に基づき、「シナリオ分析」、「気候関連リスクと機会の分析」、「戦略・指標・目標」について検討しました。

シナリオ分析

キオクシアグループでは、国際エネルギー機関(IEA)等が定める2℃シナリオと4℃シナリオ*3を使用して、気候変動が当社グループの事業にもたらす影響について、ステークスホルダーや事業ごとにインパクト分析を行いました。2℃シナリオでは、政府による制度整備・規制強化および顧客等のステークホルダーの志向の変化の影響が大きいと考えられます。例えば、工場の低炭素化にかかるコスト増加や製品のエネルギー効率改善・大容量化の開発にともなう研究開発費の増加が想定されます。4℃シナリオでは、材料価格高騰や自社拠点への物理的リスクの顕在化も見込まれます。これらのリスクに対して、キオクシアグループでは、省エネルギー・再生エネルギー施策の積極的な採用やエネルギー効率向上等のニーズを捉えた製品開発を進めています。

  • *3 2℃シナリオ、4℃シナリオとは、IEA等から発行される気候関連シナリオの俗称で、各シナリオが示す温度に気温上昇を抑えるために必要な経済施策、またその温度上昇時に想定される環境被害などを示している。

気候関連リスクと機会

キオクシアグループは、IEA等が想定する2℃シナリオ(2DS)で、2030年の外部環境のリスクと機会を下表の通り検討しています。
リスクとしては、炭素税導入による電力コスト増加や生産拡大とともに増加するPFC等ガスを除害する装置の導入費増加などの移行リスクと、外気温上昇にともなうクリーンルームの温度調整のための空調コスト増加などの物理的リスクを認識しています。
機会としては、省エネルギー化促進による製造設備の省電力化・電力コスト削減を想定しています。
また、気候関連リスクと機会が事業に及ぼす影響を明確にするため、部門横断のタスクフォースにて財務へのインパクトを具体的に算出しています。これらのリスクと機会および財務インパクトは、サステナビリティ戦略会議やサステナビリティ推進委員会にて報告するとともに、対応のための戦略が議論されています。

※表を左右にスクロールすることができます。

外部事象   リスク   機会
属性 財務インパクト 属性 財務インパクト
カーボンプライシングの導入   <移行リスク>
政策・法規制
  • 電力コスト 増加
  • 製造装置額 高騰
  • 建築費 高騰
 
製造時の省エネ厳格化・促進、再生可能エネルギーへの転換 <移行リスク>
技術
  • 再生可能エネルギー(太陽光発電等)導入費 発生
  • 新棟PFC等ガス除害装置導入費 増加
<移行機会>
エネルギー源
  • 再生可能エネルギー転換によるGHG排出量削減およびレピュテーション向上
<移行機会>
資源効率
  • 建設時~建設後の建屋環境負荷及びランニングコスト削減
  • 製造設備の省電力化によるコスト削減
  • 効率的な輸送システムや資源効率が高い資材によるコスト削減
省エネ・効率化への貢献、ステークホルダーの環境意識の向上 <移行リスク>
市場
  • 研究開発費 増加
<移行機会>
製品・サービス
  • 大容量・高エネルギー効率製品によるビジネスチャンス拡大
<移行リスク>
評判
  • ステークホルダーへの対応不足によるレピュテーションリスク、資金調達リスク
<移行機会>
市場
  • BCP*4強化による顧客の信頼度向上、ブランド力強化、企業価値向上
高炭素製品に対する需要減 <移行リスク>
評判
  • 顧客からのGHG排出削減要求による取引への影響
<移行機会>
市場
  • GHG排出量削減要望への対応による取引への好影響
  • ESG活動強化による企業価値向上、資金調達力強化
電気の安定供給 <移行リスク>
技術
  • 再エネ拡大による電力供給の不安定化
<移行機会>
エネルギー源
  • 電力源の早期確保による電力供給の安定化
天災による操業停止 <物理リスク>
急性
  • 異常気象激甚化による操業停止等
  • サプライチェーン停滞による操業停止等
水リスク <物理リスク>
慢性
  • 水量不足による操業停止等
気温の上昇 <物理リスク>
慢性
  • 空調コスト 増加
  • *4 BCP: Business Continuity Planの略で事業継続計画

戦略・指標・目標

気候変動に関する戦略として、エネルギーや環境負荷、製品に関する指標の達成を目指しています。達成度の確認は、半年ごとに開催される環境マネジメントレビューで行っています。例として、前述の通り、エネルギー使用量 (SCOPE2)に関しては、前年度に排出した量のうち1%を削減する目標を掲げて、省エネルギー活動を推進しています。詳細は、後述の当社全体の温室効果ガス排出実績や気候変動への適応の取り組みをご覧ください。
また、2040年度までに再生可能エネルギーの使用比率100%を目指しています。省エネルギー活動と非化石証書*5の活用も含めたエネルギー・ポートフォリオの検討により、事業の拡大に合わせて最適かつ安定した再生可能エネルギーの調達に努めます。今後は、カーボンニュートラル都市ガスの導入や、工場内への再生可能エネルギー設備の設置を推進する予定です。

  • *5 非化石電力証書:再生可能エネルギー(再エネ)など発電時にCO2を排出しない非化石電源の環境価値を取り出し取引できるようした証書。

当社バリューチェーンにおける温室効果ガス排出実績

キオクシアグループの事業活動における2021年度の温室効果ガス(SCOPE1,2,3:CO2換算)排出量は下表のとおりです。
(ハイフン部は対象外、製品使用時排出は未算出)

SCOPE1

2021年度CO2排出量(t-CO2

算定枠組み

694,000

事業者自らによる温室効果ガス排出量

SCOPE2

2021年度CO2排出量(t-CO2

算定枠組み

1,848,000

他者から供給された電気・熱・蒸気等の使用に伴う間接排出量

SCOPE3(自社のサプライチェーンでの排出(SCOPE 1,2以外))

カテゴリー区分

2021年度CO2排出量
(t-CO2

算定枠組み

1. 購入した製品・サービス

4,885,202

原材料、部品、容器などが製造されるまでの活動に伴う排出

2. 資本財

1,259,310

自社の資本財の建設・製造に伴う排出

3. SCOPE1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動

322,621

調達燃料・電力の上流工程に伴う排出

4. 輸送・配送(上流)

315

国内の製品物流、生産に係る物流の排出合計(サプライヤーから自社への物流や、海外での製品物流等は除く)

5. 事業活動から出る廃棄物

20,353

自社で発生した廃棄物の処理に係る排出

6. 出張

107

従業員の出張に伴う排出

7. 雇用者の通勤

13,586

従業員が通勤する際の移動に伴う排出

8. リース資産(上流)

9. 輸送・配送(下流)

10. 販売した製品の加工

11. 販売した製品の使用

12. 販売した製品の廃棄

13. リース資産(下流)

14. フランチャイズ

15. 投資

SCOPE3 (Total)

6,501,494

2021年度のSCOPE1排出内訳

2021年度のSCOPE1排出内訳

事業におけるエネルギー使用と温室効果ガス排出の実績

社会における情報データ量の飛躍的な増加に応えるため、当社は計画的に設備投資を行い、必要な生産能力を確保しています。これにともないエネルギー使用量は増加傾向にあります。
キオクシアグループのエネルギー使用量と温室効果ガス(SCOPE1+2)の排出量推移は下表の通りです。本社および横浜テクノロジーキャンパスで使用する電力の一部を対象に非化石証書を購入するなど、2040年度までの再生可能エネルギーの使用比率100%の目標に向けて取り組みを進めています。

エネルギー使用量推移(MWh)

エネルギー使用量推移(MWh)
  • 2021年度の再生可能エネルギーの使用比率は0.02%です。

Scope1 + 2 排出量推移(t-CO2

Scope1 + 2 排出量推移(t-CO2)

気候変動への適応の取り組み

キオクシア国内グループは、「製品開発」「製造事業場での運用」「サプライチェーン」のそれぞれの側面で、気候変動への対応を進めています。

「製品開発」の側面

ストレージ製品の市場では、低消費電力型製品のニーズが非常に高く、これらの製品開発による販売機会の拡大が見込まれます。当社は製品のエネルギー効率と記憶容量を向上させる高集積化技術の研究開発に取り組んでおり、2017年度を基準とした1GB処理あたりのエネルギー消費量を2025年度までに50%削減するという高い目標を掲げています。
詳細は以下をご覧ください。

「製造事業場での運用」の側面

当社は地球温暖化係数の高いPFC等ガスの除害装置の設置を積極的に進めており、2021年度は160台導入することで、年約61万t-CO2の温室効果ガス排出削減の効果を得ました。
2011年以降はPFC等ガス除害装置を対象設備に100%設置しており、2017年度以降の除害効果は累計377万t-CO2になります。

SCOPE1排出量におけるPFC等ガス除害装置の貢献効果(2017年度からの累積:t-CO2

SCOPE1排出量におけるPFC等ガス除害装置の貢献効果(2017年度からの累積:t-CO2)

また、キオクシアの製造事業場では、前述の省エネ法に基づき、前年度の総エネルギー使用量(SCOPE2)の1%を削減する目標を掲げています。2021年度は、各種省エネルギー活動により、目標23,313 t-CO2/年以上の削減に対して実績は29,652t-CO2/年の削減効果となり、目標を達成しました。2011年から2021年までの省エネルギー活動による削減効果は、累積で21万t-CO2になります。
各事業場では省エネ・効率化を推進するために、改善活動や新技術の導入に取り組むとともに、重点的に取り組むアイテムを定期的に取り上げ、改善効果や進捗を確認しています。四日市工場では2021年度、動力関連について10アイテムを重点対象として抽出しました。一例として、半導体製造に必要な高圧空気用の昇圧機の変更を行いました。昇圧方式の見直しにより、電源不要かつ無排気の装置への切り替えに成功し、年間で109t-CO2の削減が可能となりました。

「サプライチェーン」の側面

地球温暖化など気候変動の進行にともない、河川氾濫による浸水被害が毎年のように発生しています。それにしたがい、部材メーカーの生産や物流が影響を受け、サプライチェーンに障害を来たすリスクが顕在化しています。キオクシアグループでは、すべての拠点をBCPの対象とし、自然災害を含むさまざまなリスクを想定した対応体制をサプライチェーン全体で整備しています。BCP方針のもと、平時よりサプライチェーンの状況把握や調達取引先の複数化に努めています。また、有事の際には影響を迅速に把握するとともに、早期復旧に向けて連携する体制を整備しており、事業に及ぼす影響の最小化に努めています。

気候変動に関する社外イニシアティブへの参加

キオクシアは、電子機器産業の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)の環境部会の会員として、エネルギー・温暖化問題における課題解決に向けた取り組みを行っています。2020年度からは、脱炭素社会を目指す企業グループであるJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)の賛助会員になり、パリ協定における1.5℃目標実現に向けた施策や行政への提言の検討にも参加しています。また、2021年のTCFDへの賛同表明に続き、2022年よりTCFDコンソーシアムに参加しています。
持続可能な社会の実現を目指して、気候変動対応を進めるとともに、これらの業界団体への参画などを通じて情報収集や政府への提言を継続していきます。